田舎僧侶の暮らし

けっこう長芋が好きな坊主のブログ

読書感想文『世界は贈与でできている−資本主義の「すきま」を埋める倫理学−』

イモトアヤコのインスタで紹介されていた今回の本!

気になったので、借りました。

 

近内悠太:『世界は贈与でできている–資本主義の「すきま」を埋める倫理学』読了しました。

 

 

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「贈与の原理」を知ることで、僕らは世界の成り立ちを理解し、大切な人たちと出逢い直すことができる。

 

 

タイトルの副題に小さく、倫理学とあるように、確かに倫理学の傾向が強かった。

 

まぁ、倫理学の傾向が強かった。とか打ってしまったけど、そもそも倫理学という学問を今まで学んで来なかったので、これが倫理学のジャンルになる内容なのか?というような、新しいものに出会ったという感覚が強かったです。

 

哲学ぽいかな〜とも思ったけど、似て非なるもののような気もするなぁ〜なんてボヤッとした感覚のまま読み進めました。

 

この著書でいうところの「贈与」の定義は、お金で買うことのできないもの、およびその移動。

となっていて、この「贈与」の原理を著者の解釈で解明していくというものでありました。



ギブアンドテイクと贈与は別物。

 

 

半沢直樹の第2シーズンが始まって、私自身も半沢ファンとして毎週見ていますが、「倍返しだ!」という名言の他に、今シーズンでは、「施されたら、施し返す、恩返しです!」というフレーズが何回か登場してきて、今回はこれが名言のひとつでもあるんだろうなぁ〜と思って見てます。

 

この考え方は、ビジネスであればギブアンドテイクだろうし、時と場合によっては、「贈与」にもなり得るのだと思いました。

 

 

 

ビジネスの文脈では、相手に何かをしてほしかったら、対価を差し出すしかありません。相手が認める対価を持ち合わせていなかったり、「借りを返す」見込みが薄い場合などでは、協力や援助を取りつけることは難しくなります。だから大人になると、ギブ&テイクの関係、ウィンウィンの関係以外のつながりを持つことが難しくなります。p50

 

そう、ギブ&テイクでは、こっちが施したんだから、あなたは私に何を返してくれるの?という関係性になってしまう。

 

これは、一見恩返し的な概念になるかもしれないけれど、ただの「交換」という関係性にしかならない。と著者は述べる。

 

一方「贈与」の概念では、相手に自分がした行為が贈与だと受け取ってもらえなくても構わないというポジションからスタートすることになる。

 

なので、自分の行為が必ずしも相手に伝わるわけではない。という姿勢が一貫する。

 

そして、「贈与」を受け取る側の人間は、それが「贈与」であったんだと気づくまで時間を要する場合もあるし、「贈与」だと終始気づかない場合もある。

 

したがって、「贈与」は、ある行為が、それは贈与だったんではないか?と受け取る側が気づいた時にはじめて「贈与」という概念になる。

 

そのため、贈与は受け取る側が気づかなければ「贈与」として開始されない。これが「贈与」の原理である。と著者は述べる。

 

ん〜〜めちゃくちゃ理屈っぽくて最高だね。

 

贈与は、差出人にとっては受け渡しが未来時制であり、受取人にとっては受け取りが過去時制になる。贈与は未来にあると同時に過去にある。p112

 

この「贈与」のテーマを具体的に現す事例として「16時の徘徊」という介護現場で起きたノンフィクションの話が本で紹介されていた。

 

この事例には、説得力があってヘェ〜と唸らされたね。



贈与は市場経済の「すきま」にある

 

 

資本主義はありとあらゆるものを「商品」へと変えようとする志向性を持ちます。だから、僕らの目の前には、購入された「商品」と、対価を支払ったことで得られた「サービス」が溢れているわけです。それらで覆い尽くされていると言ってもいいでしょう。しかし、だからこそ、その中にぽつんと存在している「商品ではないもの」に僕らは気づくことができるのです。p224

 

そう、例えばコンビニやらスーパーでも、何買うか迷ったり探している時に、あれ?あれないな?と「無い」ことには気付けるけども、そこにあって当然かのような物が「ある」ことには気づきにくい。

 

それは、携帯・電気・水道などなど、挙げればキリがない。

そんな、あって当然のようなものが、突然災害などで急に無くなった時になってはじめて、今まであったことが当然ではなかったことに気づかされるんだよな〜著者が言いたいことは、わかるよ。

 

そうなってはじめて、今までの当たり前が「贈与」だったんだと気づく。と著者は述べる。



まとめ

 

日常の中で肌感で感じていた事を著者が言葉にしてくれたおかげで、説得力ある事例が多くありました。

 

特に、「16時の徘徊」のエピソードはこの本を理解する上で1番説得力ありました。個人的にね・・

 

「当たり前は、当たり前ではない」というどこかで何度も聞いたことのあるフレーズが、著者の論調によって、くどくなくちょうどいい塩梅まで掘り下げられていて、読んだ後は気持ちよくなりました。